2016年12月2日金曜日

「お釜」周辺の地学[蔵王]



日曜の地学15『山形の地質をめぐって』吉田三郎



~日曜の地学『山形の地質をめぐって』吉田三郎より~



お釜周辺の蔵王山


みどころ

刈田(かった)駐車場から東にのびる平らな登山道をすすむと間もなく、お釜を中心とした蔵王火山の荒々しい男性的な景色が見えてきます。お釜を見おろす広い尾根が北にのぼるこのあたりを「馬の背」といいます。

蔵王に関する本はたくさん出版されていますので、ここでは馬の背から見える範囲にしぼって、ふつうでは見落としてしまうような小さな地学現象もふくめて、たくさんの火山地形のなかから代表的な地学現象を学ぶことにしましょう。



風でみがかれた火山礫


みがかれた礫(れき)

ふつうの火山の頂上付近にある火山礫は、表面が凸凹して、川原にあるつるつるした礫とはっきり区別することができます。

ところが熊野岳頂上付近にむかしからある火山礫は、表面の西側がみがかれ、東側は火山礫本来の凸凹したものになっています。これは熊野岳の頂上が蔵王のなかでもとくに風が強く、なかでも冬季には偏西風が吹きつづけ、地表の砂を火山礫の表面に強く吹きつけるため、あたかもヤスリで磨いた状態をつくりだした結果、このような川原の石のように磨かれた火山礫がうまれるのです。

これは風による侵食作用です。このような風の強いところでは、風による他の地学現象がたくさん観察されますから、もっと探してみてください。



立ちあがる火山礫(れき)


立ち上がる石

「馬の背」を熊野岳にむかって歩いてゆくと、足もとの礫(れき)が立ち上がっていることに気がつきます。とくに、太陽光線を横から受ける早朝や夕方によく目につきます。

このあたり一帯はとくに風雨がつよく、地表がつよい雨にたたかれると小さな粒と大きな粒が分類され(分級化作用)、大きな礫(れき)が表面に立ち上がってきます。

このような現象も、あとで説明する風紋(ふうもん)と一緒に、馬の背で観察される地学現象の一つです。これらの例は五色岳北部五色沢の源頭でとくに目立って観察されます。



堆積層に落下した火山弾


火山弾(かざんだん)

五色岳の周辺では、火山噴出物の堆積層がたくさん観察されます。

ちょっと見ると地層のように思ってしまいます。とくに火山灰が層状に堆積しているところでは、本物の地層と勘ちがいしてしまいそうです。しかし構成する砂粒(さりゅう)が角ばっているので、火山性のものであることがわかります。

これらの層は火口から繰りかえし繰りかえし噴出した火山砕屑(さいせつ)物がつぎつぎに重なった結果できたものです。この層をよく見ると中に大型の火山弾がはいりこんでいることに気がつきます。これは堆積した火山砕屑物がまだ固まらないうちに火山弾がとんできて堆積層を下部に曲げたものです。

このような現象が五色岳にはたくさん見られますから、火山弾と曲げられた層の形から、飛んできた方向がわかりますので、それぞれの火山弾の起源を考えてみるのも面白いと思います。



層状に堆積した火山砂や礫[五色岳]


スコリア丘

五色岳はお釜から噴出した火山砂や火山礫が降り積もってできた円錐形の丘です。これをスコリア丘といいます。

火山から噴出する材料によっていろいろの形の火山ができます。たとえば、流れやすい溶岩がドロドロあふれだすと、なだらかな形の火山ができます。火山を観察するときは火山の形から噴出したものを推定するのも楽しいものです。



岩脈[五色岳東麓]


岩脈(がんみゃく)

岩脈は地下にある割れ目をとおってマグマが上昇し、そのまま固まったあと、周囲が侵食をうけたために、あたかもブロック塀のように地表にあらわれた岩体をいいます。五色岳の付近にはたくさん見られます。

巨大なものは丸山沢で観察されますが、上図は五色岳東麓に見られる岩脈です。



お釜の旧火口跡


旧火口

蔵王に登るとまず目につくのが「お釜」です。しかし、このお釜をふくめて五色岳は数個の火山体があつまった複合火山であることは、ちょっと注意するとわかります。

ちょうどお釜の東側にもう一つ、古い火口があることがわかります。旧火口の外輪山が円をえがいて、新しい五色岳のなかに消えています。この旧火口の火山底が五色岳の切り立った火口壁の中間を横切っているのがハッキリわかります。



五色岳の崖の途中に露出する「旧火口」


旧火口はここばかりではなく、あと2つ肉眼で観察できますから、探してみましょう。

このようなことを総合すると、五色岳が複合火山であることが実感としてつかめます。



爆風のつくった「ひっかき傷」


爆風の化石

旧火口外輪山の東端には、上図のような模様が地表に見られます。東西性のひっかき傷のような痕跡が一面についています。

大きな爆発がおこると爆発の中心から強風が吹きおこり、付近の地表に強風が通りすぎた跡をのこします(これはベースサーチといいます)。このような跡の方向を調査すると、火山爆発の中心を推定することができます。

この痕跡は火山爆発によって生じた強風の化石と思われます。



お釜の形と深さ


お釜

お釜の規模について1982年7月に測定した結果をまとめてみましょう。

お釜は南北に長い楕円形をしています。もっとも長いところで325m、短いところで204mあります。深さは最深部でマイナス25mです。

水は酸性で鉄分を日本一多く含む火山湖です。この鉄分が濁川の上流に沈積(ちんせき)してドームをつくったりしています。もちろん魚や水生生物は見られません。湖岸には高さ1.5mくらいの段丘が見られますから、季節によってお釜の水は増減をくりかえしていることがわかります。

上図はお釜の平面図で、内部の曲線は深さを示したものです(等深線図)。これを見ると最も深いところは中心部より少し五色岳頂上に寄ったところです。北西部が浅くなっていますが、これは五色川が運搬してきた礫で三角州が造成されたためのものです。



風紋


風紋(ふうもん)

熊野岳や馬の背はつよい風雨にさらされると前述しましたが、さらに、氷の作用も加わり、地表に美しい縞(しま)模様をつくりだします。

写真の黒い部分は安山岩の火山礫、白い部分は軽石で構成されています。強い風雨が密度の大きい黒い礫と、密度の小さな軽くて白い礫とをみごとに分けて縞模様をつくったものです。これは馬の背のものですが、熊野岳付近ではもっと大規模なものが見られます。




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